Walking DialogueVol.1

歩きながら考える

案内人

山城大督(アーティスト)
植田憲司(京都文化博物館)
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歩いた日時

2019年11月4日(月)
16:00~17:15あたり

ルート

三条高倉から四条東洞院とその近辺
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研究者やアーティストなど、独自の視点を持つゲストを招いてまち歩きをしながら対話し、京都の路上でまだ見ぬ刺激的なものを見つける対談企画「Walking Dialogue」。今回は初回ということでゲストはなし。「目を凝らそ」の運営メンバー2名が案内人となります。あまり目立たない場所にあるヴォーリズが設計した通路や、老舗の店先にある割れた鉢植えなど、一般的な観光メディアでは取り上げない視点で町を観察しつつ、アーティストと学芸員ならではの、多様な町との関わり方を紹介しています。
編集:中本真生
編集補助・撮影:園田葉月

重要文化財とそのすぐ近くにある落書き

A. 京都文化博物館
B. 壁の落書き

山城

今日は、京都文化博物館をスタート地点として僕と植田さんで以前、五条から三条まで歩いた際に興味深く感じた場所を辿っていきたいと思います。 僕が特に印象に残っているのは「静寂の洞窟」なんですが、そこを目的地として自由に歩いてみましょう。歩き始める前に京都文化博物館の前で記念写真を撮りましょうか。

ここは元々どんな場所だったのですか?

植田

このレンガ造りの西洋風の建物は京都文化博物館の別館です。日本銀行の京都支店として、明治36年(1903)に着工され明治39年に竣工しました。東京駅の設計者としても有名な建築家の辰野金吾による設計です。

京都文化博物館 別館ホール 外観 写真提供:京都文化博物館

京都文化博物館 別館ホール 内観 写真提供:京都文化博物館

なるほど。重厚感のある建物ですよね。では南に下りましょう。

しばらく南に下る

この壁、いつきれいになるんだろうといつも気になっていて…。この前の台風のときから、こうだったか。それよりも前からこうなのか…。

これは、たしかにね。いい具合に風化した素材ですね。触りたくなりますね。落書きといえば相合傘ですよね。それに更に、ばつが書いてある。ばつは本人の魂の叫びでは?

そもそも、このトタンの壁をなんで木材で隠す必要があったかなあ。

京都の町は、新しいものと古いものの境界線がおもしろくもあり、難しいですね。きれいにしたらきれいにするなといわれたり、きれいにしなければ汚いと言われたりして。ここらへんはすぐ近くに小学校があるので落書きが起こるタイミングがあるでしょうね。

レンガとステンドグラスが用いられた町屋

C. 水口屋甚兵衛(座布団とのれんの専門店)

ちょっと今通り過ぎたここ、面白いですね。水口屋甚兵衛

蔵と、町家風だけど正面がレンガの建物が連なっている。

撮影:植田憲司

建物がとても良い雰囲気なんだけれども、売っているものが「なんでこれ!」っていうミスマッチな状況、京都によくありますよね。中に入ってみましょうか。すごい、ステンドグラスが綺麗。こんにちは、建物すごいですね。

店の人

隣の部屋は土蔵。表から見たら別の建物に見えるけど中で蔵とつながってるの。

なるほど。ここは座布団の専門店ですか?

店の人

のれんと座布団。

ステンドグラスはもともとあったのですか?

店の人

そんなもん偽物ですわ。そんなとこにステンドグラスなんてありえへんことやけどね。ふつう垂直なところにたてるもんやからね、窓だから。

たしかに。

店の人にお礼を言って店を出る。

奥の扉から出ようか。……自動扉? これ自動扉なんですね。これはかなり面白い。こんな自動扉は初めて見ました(笑)。

すごい(笑)。

もともと蔵についていたであろう手で開けるのも大変な扉を自動扉にしてしまうとは、衝撃的ですよ(笑)。

誰かが誰かのものを直す

C. 水口屋甚兵衛の店先の割れた鉢

ああ割れていますね。いいですね、こういうの。

陶器の破片が落ちていますね。

これ金継ぎしてお返ししてあげましょうかね。

これは、店の方もきっと割れていることに気づいてると思いますよ。

いや、気づいていないでしょう。アーティストでYCAM(山口情報芸術センター)に勤めている渡邉朋也君の「なべたんの極力直そう」(※1) という、連載記事のことを思い出しました。
彼は山口に住んでいるのですが、山口県山口市のガードレールは特産のみかんの色をしていて、県道が全部オレンジ色なんです。その県道のガードレールのボルトがひとつ外れているのを見た彼は、そのボルトの形やサイズをはかり家に帰って3Dプリンターを使ってぴったり合うボルトを作った。そしてもう一回そこに行って、まことしやかにボルトをはめておいたんです。
いま同じ様に、僕が割れた陶片を直せたら町のタイガーマスクになって気分が良いなと。

県道のボルトが外れたガードレール(なべたんの極力直そう「仁保のガードレールを極力直そう」より)。

3Dプリンターで制作されたボルト(なべたんの極力直そう「仁保のガードレールを極力直そう」より)。

3Dプリンターで制作されたボルトがはめられたガードレール(なべたんの極力直そう「仁保のガードレールを極力直そう」より)。

でも、それってもともとは「町の機能」としてあったんだと思います。誰かが誰かのものを直すということ。それが近代化の過程でなくなったのでしょう。今は勝手に直すと「誰が直したんだ」とクレームを受けそうですよね。

なんでそんな勝手に動かしているんですか?とかね。

でもそのような町の機能があった方がおもしろいのにと思うんですけどね。

※1 なべたんの極力直そう
3Dプリンタなどのパーソナルファブリケーションの技術を用いて、その町の小さな欠損を頼まれてもいないのに修復するプロジェクト。DMM.MAKE他で連載され、昨年は「のせでんアートライン2019」でも展開された。

隠れたヴォーリズ