Walking DialogueVol.1

歩きながら考える

隠れたヴォーリズ

D. ヴォーリズ設計のアーチ通路
E. ヴォーリズ設計の飾灯具
F. 地下通路

そういえば、この辺で、ひとつ行きたいところがあるのですが。大丸 京都店の西の入り口にある隠れた通路です。

すごいすごいすごい。

大丸はヴォーリズ(※2)という建築家が設計に携わった建物なんです。この通路のモチーフって色々なところにあると思います。御所の西側にある大丸ヴィラもおもしろいですよ。大丸の創業者の自邸。では、ここを通ってみましょう。

面白い。なんだか伏見稲荷大社を想起させますね。京都らしい。 過剰なポストモダン、過剰な演出がされている感じがします。

これ気づかないでしょう? なかなか見えないんです。

そうですね。この前を何度も前を通ったことがありますが、気づきませんでした。これ機能としては全く意味がないですもんね。

このスポット、子供がすごく喜ぶんです。

なるほど、産道と重なるところがあるのでしょうか。

植田さんはいつここを知ったのですか?

中学生くらいかなあ。祇園祭になると四条通は人で溢れかえるのですが、ここを通ると人混みを避けられるので使っていた記憶があります。

ここ、ギャラリーにできそうですね。四条大丸現代ギャラリー(笑)。 

ここを狙っている人はいると思いますよ。少し場所を移動しましょう。こちらは地階に降りる脇階段で、ヴォーリズの設計として残っているんです。先ほどの入り口にあった通路のモチーフは、おそらくここから取っているのだと思います。このヴォーリズのモチーフは2014年頃に改装されたみたいです。

なるほど。では、こちらの方が先ほどの入り口部分より古いのですね。それにしても良い通りですね。

新しい世界に出会うための洞窟

G. 静寂の洞窟

「静寂の洞窟」は個人宅が並ぶどん突きの路地なんですが、自分を見つめ直しもう一度新しい世界に出会うための洞窟のようなんです。

洞窟って美術でも色々なアイデアを生みますし、あるいは哲学的にもメタファーとして使われますよね。

着きました、ここが僕が「静寂の洞窟」と呼んでいるところです。

今日は隣にあるエッグス・シングス(ハワイ発の有名パンケーキ店)がにぎやかですね。

たしかに。ハワイの空気を物凄い醸し出している(笑)。洞窟に入りましょう。 今日は何だろうね。暗くなって街灯がついているから、その光が目立ってまた雰囲気が違う。日中の方が暗いところに入っていくという感覚ありますね。

ここ町名がすごく良いですね。「元悪王子町」。ギャラリーの「VOU」が元あったところみたいですね。

前回も面白かったけど、あらためて通ってみると今回もやはり面白かった。

「静寂の洞窟」を抜けると、エッグス・シングスから店内BGMが漏れ聞こえている。

洞窟から出てきたら天国に降り立ったみたい。このハワイの陽気な音楽。生まれ変わっておめでとうと言われているみたい(笑)。静寂からハワイに瞬間移動してしまいました。

「目を凝らそ」の今後

山城さんは「目を凝らそ」で今後どのようなことを試みたいですか。

僕はここ数年、人間の感覚に興味があります。五感はもちろんですが、 五感以外のもの。たとえば予感や直感、そして五感の複合的なものなど。美術の歴史は視覚重視の歴史なんです。でも僕たちの感情を揺さぶるのは、目だけでなく暖かさや圧迫感など全感覚によるのではないかなと。

全感覚を使って何かを味わうことに関心を持ったきっかけは何だったんですか。

古物との出会いでした。骨董は手で触ったり、懐の中で回してみたり、お茶をいれて唇にあててみたり。目で見るだけではなく、様々な感覚器官を総動員して鑑賞するメディアなんだと実感したんです。あ、物質って面白いな、と。このような視点で、町の中に人間を刺激するようなものや現象を見つけられないかと考えています。僕たちが用意するのではなく、町の中に埋もれてしまっているものを発見したいんです。

山城さんが「目を凝らそ」でやろうとしていることは「路上観察学会」(※3に通じますが、「触ることによってある記憶や感情が再生される」というアイデアが加わることで、「路上観察学会」とはまた違う視点が生まれるかもしれません。町の中のものを「触る」ということは、なにも一方的な行為ではなくて、実は町によって私たちが「触られている」ということでもあるんです。町によって私たちも変容していくんじゃないかと思うんです。

これから何人かのゲストを招いて、京都でまだ見ぬ刺激的なものを見つけたいと考えています。

※2 ウィリアム・メレル・ヴォーリズ(William Merrell Vories)
1880-1964年。アメリカ人建築家。1908年に京都で建築設計監督事務所を立ち上げ、日本各地で西洋建築を手がけた。

 

※3 路上観察学会
赤瀬川原平、藤森照信、南伸坊らによって1986年に結成された。通常は見過ごされた都市の建築、看板、トマソン物件、建物のカケラ、マンホールなどに価値を見出し、観察・収集 の対象とした。今和次郎の考現学を源流としており、その意味で路上観察学会は現代の考現学として都市のフィールドワーク、すなわち「路上観察」を行なった。学会と名乗ってはいるが、もちろん学術組織ではない。

プロフィール

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山城大督|YAMASHIRO Daisuke
アーティスト

美術家・映像作家。映像の時間概念を空間やプロジェクトへ応用し、その場でしか体験できない《時間》を作品として展開する。2006年よりアーティスト・コレクティブ「NadegataInstant Party」を結成し、「あいちトリエンナーレ2013」「瀬戸内国際芸術祭2016」など全国各地で作品を発表。第23回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品受賞。学生時代は、四条烏丸から北白川まで自転車で鴨川を疾走して通学をしていた。2020年4月より京都市内在住。

▶︎山城大督 公式サイト
植田憲司|UEDA Kenji
京都文化博物館

学芸員。専門は文化資源学、メディア美学、メディア考古学。明治期の洋画から写真、メディアアートまでやってきました。京都芸術センターをふりだしに、川崎、霞が関、新宿初台、高知と転々とし、ひさびさに京都に戻って3年目。京都市京セラ美術館オープニング展の図録に明治期の洋画家について解説をちょこっと書きました。無事に開くといいのですが…。

▶︎京都文化博物館 公式サイト

完