Walking DialogueVol.2

骨董と経済、インターネットと路上

案内人

山下陽光(途中でやめる)
山城大督(アーティスト)
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歩いた日時

2019年12月21日(土)
8:00~12:00あたり

ルート

東寺近辺
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研究者やアーティストなど、独自の視点を持つゲストを招いて街歩きをしながら対話し、京都の路上でまだ見ぬ刺激的なものを見つける対談企画「Walking Dialogue」。第2回では、ファッションブランド「途中でやめる」を主宰する山下陽光さんをゲストに迎え、東寺弘法市が開催されている東寺周辺を訪れました。キーワードは骨董と経済、インターネットと路上。既存の価値に疑いの目を向けながら、様々な楽しみ方を開発してきた山下さんの視点が垣間見える対談となっています。
編集:中本真生
編集協力:植田憲司・森田直子
撮影:津久井珠美

個人で作っているものは高くて、チェーン店に行ったら安く買えるという状況を反転させたい

A. ミニストップ京都東寺前店
B. 案内看板

山城

山下さん、おはようございます。

山下

おはようございます。

今日は東寺の外周を歩いてみたいと思います。東寺内で東寺弘法市(※1)が開催されているので、東寺の周辺にも骨董品などの露店が出ているそうです。

いいですね。

さてさて、山下さんのことは、なんて紹介したらいいでしょうか。

「途中で止める」というリメイクブランドで洋服を作っていて、色んなお店で扱ってもらったり、ネットで売ったりして暮らしてます。手作りにしてはなかなか安いことが特徴としてあるかな。

「途中でやめる」の服。
「途中でやめる」は福岡を拠点に、1点もののリメイク服をオンライン販売するファッションブランド。自宅の庭での直売や、全国各地でのイベント直売を行うなど、その独特なデザインと販売方法は、「服を買う」という行為を批評し続ける。

「途中で止める」を始めてから何年でしたっけ。

もう十何年経ちます。

初めたきっかけはなんだったんでしょうか。

今はファストファッションが主流になってるから、当時とは状況や、みんなの服の値段に対する感覚が違うかもしれないけど、つい最近までブランドものの服ってめっちゃ高かったんですよね。

今でも高く感じる。

「そんな高い必要ないでしょ」と常々思っていて…

うん。

服以外でもそうなんですけど、チェーン店に行ったらめっちゃ安く買えるじゃないですか。「個人で作っていてこだわっているのに、チェーン店より安い」というふうに、そういう状況を反転できたらいいなと考えていた。だから「自分が客だったらこの値段で買いたいな」っていう値段で売ってます。

「途中でやめる」は、ユニクロと同じような値段で1点ものを買える。

近過去のものが骨董になる瞬間

C. すし成

陽光くんが、路上観察学会(※2)のメンバーが書いた書籍『京都おもしろウォッチング』(※3)を副読本にしながら京都を歩いた話もしてもらっていいですか。

路上観察学会のメンバーが、京都で路上観察した日の夜に、街で撮った写真をスライドで白シーツに投影しながら、「こんな写真を撮った」という上映会をやったそうで、それがめちゃくちゃいいなと(※4)。

楽しそうだね!

そこで「新しい骨董」(※5)というグループで、『京都おもしろウォッチング』に載ってる物件が現代にも残っているのかを確認しに行きました。

「さいたまトリエンナーレ2016」作品出品のためのリサーチの一環として『京都おもしろウォッチング』を副読本とした京都のフィールドワークを実施。当時の写真や情報を元に現場調査を行った。「さいたまトリエンナーレ2016」ではこれらの成果は発表されず、広島市現代美術館「夏のオープンラボ:新しい骨董」にて展示された。
photo: Motoyuki Shitamichi / New Antique

30年程前に、赤瀬川原平(※6)たちが歩いた記録を確認しにいく。めちゃくちゃ面白いね。

山下さんのこれまでの活動の話を聞きながらも、様々な路上にあるものに興味を示し、たびたび話が中断された。写真上から1枚目、2枚目は「すし成」の食品サンプルの蟹。

「新しい骨董」というグループの話も聞かせてもらえますか。

赤瀬川原平たちが羨まし過ぎて…でもそのままやったら真似っこになる。「今あの人たちが路上観察学会をやるんだったら何やるだろうか」と考えて…

路上観察学会や赤瀬川原平へのリスペクトは元々強くあったの?

モロに影響を受けましたよ。

僕が新しい骨董を初めて知った時には、もうウェブショップがオープンしていた。ウェブショップで路上で見つけた車に轢かれたような化粧品のチューブや、金継ぎした納豆のパックが売られているのを見て、これは面白いなと思った。

メンバーの山下さん、下道さんらが、「焼きすぎた食パン」「落ち葉」「何処かに行ける地図」など、路上や海岸や日常で見つけた物品をエピソードと共に安価で販売するウェブショップ

山下さんの娘(当時2歳)が、上手く開けられずバキバキに壊した納豆のパックをきれいに洗い、破れた部分をメンバーの下道基行さんが金継ぎしたもの。2,500円で販売され、購入された。

新しい骨董という名前を付けたのはなんで?

自分が25、6歳ぐらいの頃、『キン肉マン』や『聖闘士星矢』とかの、すでに連載が終わって年月が経っている漫画やアニメのグッズ、ファミコンソフトに高い値段がつき始めた。

はい。

その時に「おや?」と思った。連載当時一番人気があった『ドラゴンボール』が再評価されるのはイメージできるけど、一周回ったら『聖闘士星矢』の方が評価されるというのは、80年代に小学生だった時、予想できなかった。それから「一番新しい状態で骨董になるのっていつだろう」「それを自分らで見つけてみたい」と思った。世間一般から骨董品と認められている古美術や古道具じゃない、近過去のものがいつ骨董になるのか。だから路上観察も、最初はイオンやコンビニとかでやろうかと話していた。

イオンで路上観察(笑)!めちゃくちゃ面白い。

コンビニのレジで並ぶところの床や壁が擦れた跡とか、「あり得ないところで人の手垢を探すと面白いかも」みたいな話をしてた。

骨董と経済

今の話は骨董の話をしているようで、実は経済の話をしている気がした。経済の生産の観点では新しいものを作って売らないといけないから、生産者側からするとみんなに新しいものを買ってほしい訳じゃないですか。だけど「古いものを欲しい」という視点も人間の中にある。

うん。

例えばアニメのセル画。あれは骨董になり始めている。ジブリでいうと『千と千尋の神隠し』までがセルアニメなんですよ。それ以降はもうデジタルになっちゃってるから、セル画が存在しない。アニメの歴史はまだ続くけど、セル画で制作するアニメの歴史はすでに終わってる。先月、名古屋の百貨店で「アニメセル画展示即売会」が開催されてて、観に行ったんです。ジブリのセル画だと5080万円くらいしてました。セル画は物質だし、名シーンのセル画は1枚しかないから、1枚の価値が上がってる。

2001年にCONVERSEのアメリカ工場がなくなって、それ以降、メイド・イン・USAのCONVERSEの靴が生産されていない。古着屋とかはその頃からメイド・イン・USAに高値をつけ始めた。でもその頃は、まだ普通に東京靴流通センターにメイド・イン・USAは売ってた。だから東京靴流通センターで買ってきて古着屋に並べるだけでも値段が上がるような状況だった。その感じって、どんどん加速していってる気がしますね。例えばヒカキンとローソンのコラボグッズが、まだローソンで定価で売られているのにメルカリで高値で売られているみたいな。CONVERSEの靴が古着屋で高値で売られていた時代から、ネットのスピード感がさら加速して感覚が追いつかない。

ファッションの業界ではかなり使われている技法だよね。

そうかもね。

限定にして価値をつける。前に陽光くんがTwitterで紹介してた裏原宿全盛期にNOWHERE(※7)や、その周辺のブランドの服を買いに行った記憶を回顧する記事を読んだんだけど。当時入手超困難だった「○○が発売されるらしい」という噂を信じて正月の1月8日のの初売りのために6日前の1月2日から決死の覚悟で並ぶっていう。あれくらいの時代に、僕はあんまり東京のファッションへの憧れとか全くなかったから、全然知らなかった。今から考えると信じられないけど、ネットのない時代だからね。

信じらんないよね。「買わせてください!」みたいな。何それって感じじゃん。ああいうのが嫌で嫌でしょうがなかったもんね。あの時にあぐらをかいていたせいで、今のメルカリで転売が横行しているような状況があるんじゃないかな。

※1 東寺弘法市
東寺で毎月21日に行われている、市(いち)。骨董品、雑貨、反物、食品など多様な露店が1200~1300店ほど出店され、毎月約20万人の人が訪れている。第1日曜日には骨董市(がらくた市)も開催される。

 

※2 路上観察学会
赤瀬川原平、藤森照信、南伸坊らによって1986年に結成された。通常は見過ごされた都市の建築、看板、トマソン物件、建物のカケラ、マンホールなどに価値を見出し、観察・収集の対象とした。 今和次郎の考現学を源流としており、その意味で路上観察学会は現代の考現学として都市のフィールドワーク、すなわち「路上観察」を行なった。学会と名乗ってはいるが、もちろん学術組織ではない。

 

※3 京都おもしろウォッチング
路上観察学会による京都での路上観察の様子が記録された書籍。1988年、新潮社とんぼの本より刊行された。
赤瀬川原平・藤森照信他著、路上観察学会編『京都おもしろウォッチング』新潮社、1988年

 

※4 「扉野良人・書誌学の世界」(ウェブサイト 「別冊ノベリスタ」より)
http://novelista.wasedabook.com/TobiranoYoshito/01.html

 

※5 新しい骨董
東京、長崎、名古屋など、異なる土地で活動するメンバーが、まちやネットに溢れる「“新しい骨董”とでもいうべき何か」を探索し、語りあうバーチャルな実験室。その活動はWEBサイト上で逐次更新されている。
https://atarashiikotto.com/

 

※6 赤瀬川原平(1937-2014)

横浜市生まれ。画家、作家。前衛芸術のみならず、マンガ、文筆、写真など 様々な分野で活動した。60年代には「ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ」「ハイレッド・センター」といった前衛芸術グループを結成「ミキサー計画」として《模型千円札》や梱包作品を発表し、これが「通貨及証券模造取締法」違反であると起訴され「千円札裁判」で有罪となる。1981 年に尾辻克彦名義で発表した小説「父が消えた」で第84回芥川賞を受賞。 99年にはエッセイ『老人力』(筑摩書房、1998)がベストセラーになった。 

 

※7 NOWHERE
1993年4月1日、東京・原宿にて創業。ファッションブランド〈A BATHING APE®〉を展開するなど90年代の裏原ブームを牽引した。

よぼよぼの副え木