Walking DialogueVol.3

民俗学者と歩く瓜生山

頂上の石室と北白川の石材業

F. 瓜生山山頂

10分ほど登り頂上に着く

ここが頂上ですか?

頂上です!

何かありますね。祠と呼ぶには立派な…お堂でしょうか?

お堂ですね。

お堂の前で写真を撮っておきましょう。

元々ここには勝軍地蔵という、戦の勝利を祈る地蔵がありました。ただお参りが大変だということで、今は造形大の近くまで下ろされました。

お堂の後ろに回り込む

後ろに石室があります。

元々ここに勝軍地蔵さんがいらっしゃった。北白川地域にはこういう石室がちょこちょこあります。比叡山から大文字にかけては花崗岩地層なんですよ。削ると石材が取れるので、石で作ったものが結構色んなところにあります。

こんなところに絵馬がありますね。「瓜生山 百回 登拝満行」と書かれています。

100回登ったという意味です。

一同

ええー!

しばらく頂上を散策する。

あと30分で日没なので、下山しましょう。

しばらく下ると、石切り場跡に到着する

ここは且つて石切り場だったそうです。

この辺りは基本的に花崗岩の塊です。

この石はキラキラしていますね。これが花崗岩ですか?

そうだと思います。

『北白川こども風土記』には北白川の石材業が最も栄えたのは明治末年くらいと記されています。当時京都の町中の洋風建築を建てる時には、全部ここから切り出したということです。例えば日本銀行旧京都支店(現在の京都文化博物館別館)などは、この辺の石で作ったそうです。さらに花崗岩が崩れると白川砂というすごくきれいな白砂ができます。白川砂は太秦など映画の撮影所で利用されたそうです。こうした話も『北白川こども風土記』に出てきます。

白幽子の生活を想像する

G. 白幽子巌居蹟

白幽子の修業した場所を目指して歩く

なぜ白幽子は山の中で修行したのでしょうか。

ひと山越えたところにある詩仙堂に拠点を置いてた石川丈山ら徳川幕府の幕閣と結んでスパイをしていたんじゃないかという俗説はありますけれど…それよりは偏屈じいさんが山に籠っていたという話の方が信憑性があるかな。

立て看板と石碑が目に入る

そこに立て看があるから…そこだ!

ここ!?

ここで一人座禅を組んで修行していたわけです。

修行できそうな場所ですね。ここに住んでたということですか?

そのようですね。禅画に出てくる達磨と同じ世界ですよね。

ちょっと想像が追いつかないですけど。

白隠が養生術のことを書いた『夜船閑話』(1757年)という書籍があるのですが、それによると一応ここを発祥の地と名乗っています。

石に囲まれてるし、他の場所と比べたら「ここ俺の基地にしよう」と思うかもしれないという気がしてきました。ちょっとあそこら辺に座ってみようかな。

そこで座禅とか組んだら画になりそうですよね。

ちょっと白幽子の悟りに近づきましたかね。

これそうな人はきてみたらどうですか。

では私もはばかりながら。

いいですね、ここは初めてきました。

白幽子が修行していたのはどれぐらい前ですか?

十八世紀です。

当時も山下には人が住んでたんですよね?

そうですね。この辺りは農村でした。

白幽子の生活を想像し、しばらく辺りを散策する

では下山しましょう。

この道を戻ると、来た道に合流するはずです。

陽が沈んでいく中、下山する

今日はお疲れ様でした。スタッフのお一人がロングスカートだったのにビックリしましたが、無事下山できて本当に良かったです。

いや、ほんと。実は…山に登ることを連絡していませんでした(汗)。
菊地さん、またご一緒したいです。

瓜生山から見下ろした日暮れの京都

プロフィール

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菊地 暁|KIKUCHI Akira
民俗学者

京都大学人文科学研究所助教。道産子が大学入学をに京都・北白川で下宿を始めてから早くも三十余年。歴史学、人類学を学んだ末にたどり着いた民俗学とは、人々の「しょーもなさ」と「せつなさ」に寄り添い続ける学問ではないかと思っている。調査エリアは「大日本帝国」をカバーしつつあり、研究テーマも「どっからでもかかってこい」状態。未だ天命を知らず。著書『柳田国男と民俗学の近代―奥能登のアエノコトの二十世紀―』(2001)、編著『身体論のすすめ』(2005)、共著『今和次郎「日本の民家」再訪』(2012)、共編『日本宗教史のキーワード:近代主義を超えて』(2018)、共編『学校で地域を紡ぐ:『北白川こども風土記』から』(2020)。重森弘淹写真評論賞(2002)、日本建築学会著作賞(2013)、日本生活学会今和次郎賞(2013)受賞。

▶︎京都大学人文科学研究所 公式サイト 菊地暁 紹介ページ
山城大督|YAMASHIRO Daisuke
アーティスト

美術家・映像作家。映像の時間概念を空間やプロジェクトへ応用し、その場でしか体験できない《時間》を作品として展開する。2006年よりアーティスト・コレクティブ「NadegataInstant Party」を結成し、「あいちトリエンナーレ2013」「瀬戸内国際芸術祭2016」など全国各地で作品を発表。第23回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品受賞。学生時代は、四条烏丸から北白川まで自転車で鴨川を疾走して通学をしていた。2020年4月より京都市内在住。

▶︎山城大督 公式サイト

完